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『弁論術』理論だけでは人は動かない!紀元前の賢人に学ぶ説得の技法

だけでは、人は動かない。

 
 

部下に仕事のやり方を変えるように言ってるんだけど、全然改めてくれないんだよね。何が悪いんだろう…?

Kada
Kada

『人を動かすための話し方』にはコツがあるんだって!

紀元前300年前のギリシア人の著作に学んでみるのはどう?

    

自分の言うことを人に聞いてほしいとき
身近な人に、お願い事をするとき

私たちは生活の中で、相手を「説得」をしなければならない場面に遭遇することがあります。しかし、うまく意図が伝わらずに困った思いをしたことはありませんか?相手の理解を得られないと、なんとも悲しい思いになるものです。

 
 

間違ったことは言ってないのに、なんでわかってくれないの!?

『自分の話がうまく伝わらない』という悩み、実は紀元前300年前の古代ローマにおいて、哲学者がすでに答えを出しているんです。

本日紹介するのは、アリストテレス『弁論術』です。この本を読めば

「お小遣いを500円アップしてほしい・・・!!」という小さな悩みから、「このプレゼンを成功させて、取引先に自社の製品を買ってもらいたい!!」という依頼まで、人を動かす会話法が学べますよ。

    

   

アリストテレスってどんな人?

著者は、アリストテレス。古代ギリシアの哲学者であり、様々な自然研究の業績を持つことから、「万学の祖」としても知られる人物です。紀元前384~322年に存在していた人物とされます。

「万学の祖」の名前は伊達ではなく、残した著作の中には、形而上学、倫理学、政治学、宇宙論、天体学、自然学、気象学、生物学、詩学、演劇学、心理学に関するものまであり、西洋の学問体系に大きな影響を与えました。

Kada
Kada

すっごい勉強好きな偉人なんだなぁ…。
尊敬しちゃう!

さて、そんなアリストテレスが書いた『弁論術』

アリストテレスは弁論術を、「どんな問題でもそのそれぞれについて可能な説得の方法を見つけ出す能力」と定義しました。少しわかりにくいので言い換えると、「どんな場合に、どんな相手であっても、説得できる力」ということです。

そんな説得の能力が、学問のひとつとして発達したのは、当時のギリシアの歴史的な情勢が関わっていました。

   

弁論術はおべっか術!?本来の目的が無視された時期も・・・。

他者を説得する能力が、なぜ紀元前のギリシアで重要視されたのでしょうか?それは、当時のアテナイ(ギリシアの首都)では、話術によって世論を動かすことが、身の保全を得るためのひとつの方法だったためです。

弁論術はもともと、法廷における弁論のテクニックを研究し、そのテクニックを他の人に教えるというかたちではじめられたとされています。

法廷で罪を犯した人間を裁き、正しい行いをした人を守るための弁論術は、民主制のギリシアで広く受け入れられました。その後、法廷だけではなく、政治分野にも弁論術が浸透したようです。

以下は、アリストテレスの師匠プラトンの著作『パイドロス』の解説からの抜粋となります。

     

時あたかも、言論の自由と法のもとにおける平等をたてまえとする民主制下のアテナイでは、人は国民全体の集会である国民議会や陪審法廷の世論を動かすことによって国政を支配し、あるいは身の保全と立身をはかることができたから、そのための言論の能力をひとつの技術のかたちで授けてくれることを約束する弁論術の教師たちの登場は、まさに時代の要請でもあったのである。


パイドロス(岩波文庫)プラトン著 kindle版 | 位置: 2,671

    

しかし、徐々に弁論術は本来の目的から離れていき、「話す内容が正しいかどうかに関わらず、人を動かす話術」という扱いを受けることになります。

     

世に横行する弁論術とは、自分の説くことがらが為になること(善)かどうかを何ひとつ顧慮せずに、ひたすら聴衆におもねることによって多数の賛同を得ようとのみ 々とするところの、「おべっか術」にほかならなかった

パイドロス(岩波文庫)プラトン著 kindle版 | 位置: 2,721
Kada
Kada

内容はちぐはぐなのに、話し方が上手くて騙されることってありますよね・・・。
完全に詐欺師のソレ。

    

弁論を技術に昇華させる!『弁論術』の内容は?

そんな流れもあって、弁論術の価値が落ちてしまったこともありました。アリストテレスの師匠プラトンにいたっては、弁論術は”経験による〈慣れ〉にすぎない”と言っています。

プラトン
プラトン

レトリック※はまやかしだ!!話をする技術なんて、「人前で話をすることに慣れる」しかないだろーーーー!!!

※レトリック:巧みな表現をする技法のこと

      

しかしアリストテレスは、弁論術は、説得が上手くいく方法とその原因をまとめることにより、技術として成立させることができると話しました。

アリストテレス
アリストテレス

いやいや、弁論術は立派な技術だ!

弁論を正しく使うために、本にまとめるぞ!!

そんな流れで成立した『弁論術』。本書は、効果的な説得の方法を、アリストテレスが全3巻にまとめた著作です。巻ごとに内容がわかれており、ざっくり分けるとこんな感じです。

第一巻:弁論術の定義と種類について

第二巻:人間の感情の分析と、聴き手に有効な説得技術

第三巻:文体・リズム・声の調子などの表現方法

内容は非常に難しいですが、現代社会でも通用する主張が多く、哲学書の中では比較的読みやすいかもしれません。

   

現代社会に活かす『弁論術』の要点!

弁論術の目的は?

説得というと、頭ごなしに相手の論調を押さえつけたり、論理的に正しいことをまくしたてたりするイメージもありますが、それは本来の弁論術の目的から外れています

たとえ、強い態度で相手を説得できたとしても、面従腹背するばかりで、説得内容が腹落ちしていなければ、相手からの信頼を得ることは難しいでしょう。

弁論術の目的とは、説得を成し遂げることそのものではありません。その時々の問題に対して、ふさわしい説得の方法を見つけ出すことが目的です。

Kada
Kada

相手を説得させたかどうか、は二の次なんだね。

本書では人間の感情がなぜ生まれ、どんな状態をもたらすのか、の考察にかなりのページが割かれており、相手の感情を考えながら説得を進めることが望ましいと分かります。

   

相手を説得するには、「ロゴス」「エトス」「パトス」を意識せよ!

だが、弁論は判定を下すことを目標にしているのであるから(なぜなら、議会では様々な助言について判定するし、法廷の判決も判定であるから)、弁論家は、(1) 言論に注目して、それが証明を与え、納得のゆくものとなるように配慮するだけでなく、(2) 自分自身を或る人柄の人物と見えるように、そして同時に、(3) 判定者にも或る種の感情を抱かせるように仕上げをしなければならない。

弁論術(岩波文庫)アリストテレス著 kindle版 | 位置: 2,377

おそらく、本書で最も有名な文章だと思われます。

弁論で意識すべき内容は、次の3点

1点目は、論理(ロジック)です。ギリシア語でロゴスといいます。 (1) 言論に注目して、それが証明を与え、納得のゆくものとなるように配慮する がこれに当たります。

当然ながら、論理的にムチャクチャだと思われる内容に賛同することは難しいでしょう。まず初めに、主張が理にかなっているかどうかを確認し、相手に納得してもらえる内容になっているかどうかを確認するべきです。

   

2点目は、倫理(エシックス)です。ギリシア語でエトス(2) 自分自身を或る人柄の人物と見えるように とかぶる部分があるはずです。

論理だけでは人は動かない、と一番初めに書きましたが、理にかなった主張でも、道徳的に正しくなければその主張に力を貸そうとは思えません。倫理にかなっており、人のためになると実感できる内容であればこそ、人は自分の力を投入しようと思えるのです。

道徳的に正しい主張をすれば、論者の人柄を相手に伝えることができ、信頼を勝ち取ることにも繋がります。

   

最後は、情熱(パッション)です。ギリシア語では、パトスと言います。エヴァンゲリオンのOPに出てくる、ほとばしる熱いパトスです。 (3) 判定者にも或る種の感情を抱かせるように仕上げをしなければならない の部分がこれに当たりますね。

人を動かす力は、何よりも共感です。説得が受け入れられるかどうかは、聴き手の心理状態に大きくかかわります。自分が大切だと思っていることだとしても、やる気がなさそうに話せば伝わるものも伝わりません。

自分の主張は情熱をもって語り、聴き手の感情を揺さぶることが信頼に繋がります。

   

これがどう役に立つかっていうと、私の場合は、薬剤師の仕事場で患者さんに服薬指導をするときに『ロゴス、エトス、パトス』を意識してます。

Kada
Kada

「薬を飲みなさい」だけじゃなくて、「相手の体を一番に考えている」ことを伝えてから話せば、薬を続けて飲んでくれることが多くなりました。

    

『弁論術』は難しい・・・。理解するためのポイントは?

アリストテレス『弁論術』について解説いたしましたが、いかがだったでしょうか。

人の心理を考えながら相手を説得する方法が紀元前300年前に発案され、かつその内容が現代まで流用できるということが驚きです。

Kada
Kada

人間って、昔とはあんまり変わらないんだなあ。

 

しかしながら、この本の内容は難しいです。というのも、本書の第一巻は『弁論術の定義と方法』について書かれているのですが、弁論についてすごくネットリした主張が繰り返されており、ギリシア哲学初心者の人はたぶん挫折します。

議論に対する考え方を学ぶことはできますが、ハッキリ言って面白くない理解に時間がかかります。

     

アリストテレス『弁論術』が難しい!と感じるときのおすすめの読み方は、第二巻から読み始めることです。私も、第一巻は興味のある所を拾い読みして、第二巻と第三巻の内容を楽しみました。

重厚で、かつ理解が難しい点もある古典です。その分、現代に生きる私たちにも生かせる知恵がたくさん詰まっています。無理にすべてを理解しようとせず、自分の興味のあるところから読むのが良いでしょう。

    

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