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【グリコ・森永事件】警察が昭和最大の身代金事件に敗れた理由とは

Kada
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ノンフィクションが大好き。Kada(@Kada_Se)です。

『グリコ・森永事件』ってご存知でしょうか?
昭和に起きた事件で、日本を震撼させた”劇場型犯罪”と言われています。

当時のグリコの社長を誘拐し、身代金を要求することから始まりました。

当時の警察は、犯人と思われる男と接するチャンスがありながらも、取り逃しました。
2000年に時効が成立し、いまだに未解決のままとなっています。

なぜ警察は敗れたのか?300人もの捜査員に聞き込みを行い、その理由に迫ったノンフィクションです。

内容は事件のルポですが、日本の組織構造における問題点を抉り出すような内容にもなっています。

未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言 (新潮文庫)
↑リンク先はAmazon

この本はどんな本?

その男が振り向いた時、捜査員を恐怖が襲った。

サングラスの奥に光る釣り上がった目──キツネ目の男だった。

「Fがいた!職質したい!」。

しかし、捜査本部は尾行を指示。男は姿を消し、犯人逮捕の最後のチャンスは潰えた。

日本列島を震撼させた空前の劇場型犯罪。

警察はなぜ敗れたのか。

元捜査関係者たちが初めて重い口を開く。

NHKスペシャル取材班が総力をあげて迫る未解決の「真相」。

Amazon内容紹介より

この事件が起こったのは、昭和59年(1984年)。「かい人21面相」と名乗る犯行グループが、当時のグリコの社長であった江崎氏を誘拐し、現金数億円と金塊100キロを要求しました。

社長が自力で脱出した後も、

  • 脅迫状を企業・メディアに送り付ける
  • 関連する建物への放火
  • 森永・丸大・ハウス食品といった他の食品グループに対しても金銭を要求
  • 青酸ソーダ入りのお菓子を店頭に置く

といった行為を繰り返していました。

しかしこれだけ大々的に活動をしながらも、警察は犯人を捕まえることができませんでした。この事件は2000年に時効が成立しています。

なぜ警察が敗れたのか、その理由に迫るノンフィクションです。

この事件について詳しく書かれた年表が、NHKのサイトに載っていました。
このページが時系列が良くわかりやすく書かれています。
NHK未解決事件 第1弾グリコ・森永事件 事件の年表

未解決事件を「警察の失敗」で終わらせない

当時の捜査員たちにインタビューをする理由を、このように説明していました。

未解決のまま終わった事件なのに、何が問題だったのか十分な総括がされていないこと、これをただの警察の失敗としてとらえるのではなく、ここから導き出される社会への教訓を伝えたい

「未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言」p27より

全然知りませんでしたが、日本には約300もの未解決事件があるそうです。多い!!

そんな中、『時効が成立した』『事件が解決できなかった』ことに対して、解決できなかった理由を目にしたことがないなと思って居ます。

当時の警察では、事件を未解決にした原因について、詳細な振り返りはなされなかったそうです。

そもそもこの事件について警察組織としてどのように分析・検証したのかということについては、取材で入手した警察の内部資料を見ても、あるいは当時の警察幹部に取材をしても、どこにも明確なものは見出すことができなかった。

(中略)

そうした「なぜ、事件は未解決に終わったのか」という疑問に誰も答えていない、あるいは何かしら答えようとした痕跡すら見つけられなかった

「未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言」p371より

仕事をしていても、何か失敗したら振り返りをして再発防止に努めるものですが、実際の事件でもそういった振り返りがなされていなかったことは驚きです。

なぜ、グリコ・森永事件の犯人を捕まえられなかったのか

本書の中で、警察が実際に犯人と思われる不審な男を見かけ、職務質問するチャンスがあったことが書かれています。

※本書表紙の似顔絵が、犯行現場近くで何度も見かけられた不審な男。通称『キツネ目の男』『F』

ではなぜ、グリコ・森永事件の犯人を捕まえられなかったのか?
本書を読む限り、簡単に説明するとこんな感じです。

理由① 他府県の警察との連携不足

犯人の逃走は県を跨って行われたが、きちんと連携を取れていなかった。
県ごとの「縄張り意識」があり、情報を隠しあっていた。

理由② タテ割り組織の壁

現場と司令部との間に意識の差があり、捜査員自身の判断で動くことができなかった

理由③ 現行犯逮捕にこだわり過ぎた

不審な男を目の前にしても、職務質問をしても逮捕できる状態ではない。
金に手を付けた瞬間の『現行犯逮捕』にこだわり、手出しができなかった。

本を読みながら、難しい判断だったと思いました。予期せぬトラブルにも見舞われ、想定を上回る行動をとる犯人グループに対して、どう対応するのが正解だったのか。

過去を振り返って「こうしたらよかった」というのは簡単ですが、当時の現場でどう行動するべきだったのか、非常に難しい事件です。

でも、「ちゃんと他府県との連携は取っていかないとだめだろ~~~!!」とは思った。部門同士の仲が悪い起業みたいだ・・・

人生の中に、未解決事件があるということ。

大きな事件が未解決に終わったとき、社会には不安が蓄積されていくと思います。

作家の高村薫氏が、未解決事件が社会に及ぼす影響について語った言葉が心に残りました。

「一人の人間にとって、ある時代の一つ一つの事件というのは、自分の人生の一部になっていくんです。人生の中で『ああ、あの時はあんな事件があった。こんな事件があった』と。

それが未解決に終わるということは、『あそこにも訳の分からない事件があった。ここにも犯人が分からない事件があった』つまり人生の中に一つ『穴』があいていくということになる。

だから出来うる限り未解決事件を作ってはいけないんです・・・」

「未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言」p4より

青酸ソーダ入り菓子を実際に店頭に並べられたりはしましたが、この事件では一般の死者・被害者は出ませんでした。しかし、当時『もし自分の子供が青酸ソーダ入りのお菓子を食べてしまったら。』と不安になった親は多かったことだと思います。

だからこそ、きちんと未解決の事件を総括することが必要になります。

グリコ・森永事件が未解決に終わった理由を振り返ると

  • 上に対して意見を言えない現場
  • 失敗に終わった作戦を振り返らず、総括をしない組織

・・・という問題点が浮かび上がります。

ってこれ、完全に現代の日本企業にも当てはまる部分があります。

警察と企業で、規模は違えど実態は同じ。
閉塞的な組織でいることは良くないと、改めて考えた一冊です。

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