ストレスで落ち込んだり、鬱になったりすることは知られているけど、ストレスが原因で身体的な症状が出ることもあるって本当?
本当です。しかも、たかがストレスと言って侮れないほどの症状が・・・。ぜひこの体験記を読んでほしいな。
どうも、運動不足すぎて14歳でぎっくり腰になった経験のある、Kadaです。
当時は中学生でしたが、流石にやばいと思って必死に運動しました。
私たちが立っているときも、座っているときも、絶えず姿勢を維持してくれている「腰」。こんなに大事なのに、普段生活しているときにはないがしろにされることも多い部分です。
腰痛になって初めて、腰の大切さが身にしみます。
腰痛の原因は、運動不足や肥満、骨の異常、ヘルニアなど多々ありますが、ストレスが原因の心因性腰痛もあるってご存じでしたか?
何をしても治らない・・・。そんな腰痛と戦っている方にお勧めしたい一冊が、「椅子がこわい 私の腰痛放浪記(夏樹静子)」です。腰痛に限らず、ストレス性の痛みをお持ちの方にも、きっと刺さる本だと思います。
・わけのわからない苦痛を抱えて悩んでいる方
・ストレスによって心が引き起こす身体症状について知りたい方
その痛み・・・心のSOSかもしれませんよ。
もくじ
「椅子がこわい 私の腰痛放浪記」ってどんな本?
「この記録は、もしかしたら私の遺書になるかもしれない」
そんな書出しで始まる本書。内容はタイトル通り、著者の夏樹静子さんによる腰痛の体験記です。
「夏樹静子のお葬式を出しましょう」──苦しみ抜き、疲れ果て、不治の恐怖に脅かされた闘病の果てに、医者はこう言った。時には死までを思い浮かべた鋭い腰の疼痛は、実は抑制された内なる魂の叫びだった。そして著者もいまだに信じられないという、劇的な結末が訪れる。3年間の地獄の責め苦は、指一本触れられずに完治した。感動の腰痛闘病記。『椅子がこわい─私の腰痛放浪記』改題。
腰痛放浪記 椅子がこわい (新潮文庫) amazon内容紹介より抜粋
「遺書になるかもしれない」だなんて、腰痛ごときでそんな大げさな~
と思うかもしれませんが、夏樹さんが本書で書かれている腰痛の症状は、一般的に想像される「腰痛」をはるかに超えています。
簡単に症状を抜粋すると、こんな感じです。
腰が痛くて、椅子に30分間続けて腰掛けることができない。座り続けることに限界を感じて立ち上がっても、立った状態も腰に負担がかかって痛い。腰の痛みを和らげるために、ソファの上に正座して座る。職業は作家なのに、机に向かえないので仕事ができない。趣味の囲碁は、座れないので腹ばいに横たわって対局する。新幹線や飛行機は、2席確保して横になったまま過ごす。腰が活火山のように痛み、朝から晩までエビのように体を曲げて横たわって堪えていることしかできない・・・。椅子がこわい。
ひえええええ!地獄!!
仕事も家事も趣味もできず、ひたすら横になっているだけって苦痛です。
腰痛を治すために、著者の夏樹さんは様々な治療を試みます。
様々な病院を渡り歩きながら、水泳、マッサージ、鍼、カイロプラクティック、マッサージ、モルヒネ注射を受け、あげくには気功や祈祷、お祓いまで・・・。
レントゲンやMRIといった検査でもこれといった異常は見つからず、痛みは増すばかり、
この症状に3年間悩まされて、一時は自殺も考えたことが本書の中で打ち明けられています。
腰痛の原因はストレス?無意識で悲鳴を上げる心
しかし、ある時に転機が訪れます。精神科医の平木先生と出会ったことが、夏樹さんが腰痛から回復するきっかけとなりました。
それまでも、様々な治療を施しても改善が見られない現状から、夏樹さんは他の医者たちから「心因性ではないか」という指摘を受けていました。
しかし、夏樹さんは「たかが心が原因でこんなに強い痛みが起こるわけがない」と思い、自分は不治の病にかかってしまったのだと信じ込んでしまいます。
それに対して、平木先生は「心因性です。」とバッサリ。
われわれこそ十二分に器質的疾患がないかどうかを疑ってかからなければならないのです。もし何か別の病気があるのに心因性の治療ばかりしていたら大変なことになるでしょう。
(中略)
心因だからこそ、どんな激しい症状でも出るのですよ。そして神経質な人ほど、自分ほど苦しいものはないと思い込んでいるんですね。
椅子がこわい 私の腰痛放浪記 (夏樹静子著)p122より抜粋
そして、平木先生の見立てはこう続きます。
著名な作家である『夏樹静子』の存在を、主婦である『出光静子(夏樹静子さんの本名)』が支えきれなくなったため、身体を支える象徴である腰が痛み、弱化したという感じで本人は捉え、表現しているのではないかー
もともと夏樹さんはワーカホリック気味なところがあり、仕事に対して妥協をせず突っ走るタイプだったそうです。
いわばこの腰痛は、作家である自分と本来の自分とが乖離を起こし、無意識化でストレスを感じていたことに起因しているということです。
仕事で心が壊れるのを防ぐために、無意識が病気を作り出す、疾病逃避の状態です。
心因性腰痛の治療法!自律訓練法と絶食療法
そんな夏樹さんに行われた治療法が、自律訓練法と絶食療法でした。
自律訓練法とは、リラクゼーション法のひとつです。
横になった状態で「両手が重たい」と頭の中で繰り返し、本当に両手が重たくなったり、しびれたり、ジンジンするような感覚を味わいます。
両手が重たくなる感覚が味わえたら、「両足が重たい」「手足が温かい」などの公式を追加していき、少しずつ自分の意識が身体の状態を認識できるようにしていくのです。
睡眠障害の患者さんなどでもよく使われる方法ですね。
そして、入院後に行ったのはまさかの絶食療法でした。
病院の管理のもとに行った絶食療法ですよ!
個人でやるのは絶対ダメ!!!
12日間絶食し、水か番茶だけは飲める状態にする。その間は、新聞を読んだり、仕事をしたり、友人や家族と接触したりすることは禁止です。
絶食療法って、余計なインプットを無くすことでひたすら自分の心と向き合い、精神のコントロールを取り戻すときに使われたんですね。
絶食中は、今までにないほどの痛みが襲い掛かってくるものの、痛みに対して医師に不満をぶつけると嘘のように痛みが引くーということを繰り返し、まるでらせん階段をのぼるかのように回復への道を歩み始めます。
私がこの場面を読んだとき、夏樹さん自身が仕事で作り上げた理想の自分像を守ることに必死で、今まで自分自身と向き合えていなかったツケを払っているかのように感じられました。
「倒れてのち病む」。無意識で仕事のストレスを感じ、疾病を作り出す状態。
「心因性の痛み」と聞くと、なんとなく軽い印象を受けてしまいがちです。
しかし私たちの無意識は、自分自身を守るために、時にとてつもないパワーを発揮します。
あなたの今までの生き方をずっと聴いてみると、典型的なワーカホリック(仕事中毒)ですね。一般的にそういう人たちは”倒れてのち病む”といわれる。どうしようもなくなってようやく、病んでいたことに気がつくのです。あなたもそのケースかもしれません。
椅子がこわい 私の腰痛放浪記 (夏樹静子著)p178より抜粋
夏樹さんは、決して仕事がしたくないわけではありませんでした。
しかし、自分が気がつかない潜在意識が疲れ切って悲鳴を上げ、心に反して腰痛を起こしていたのです。
そして、完全なる回復のために平木先生が提唱したのが、「作家、夏樹静子の葬式をすること」。
作家としての人生を終わらせることでした。
この後、夏樹さんがどのような選択をしたのかはここでは書かないことにします。
しかしながら、潜在意識の力だけで椅子に座れなくなるほどの痛みを起こすなんて、私たちのこころと意識は予想以上に私たちのコントロールを握っていると感じざるを得ません。
ストレス性の痛みを起こさない生き方~「あるがまま」の大切さ
本書は、夏樹静子さんが想像を絶するほどの腰痛に苦しみ、そこから抜け出すまでの治療を書いたノンフィクションです。
現在、仕事で頑張りすぎてメンタルが辛い方や、原因のわからない謎の痛みに苦しんでいる方は、読んでいてい参考になる一冊だと思います。
このストレス社会で、ひたすら仕事を頑張っている人もたくさんいらっしゃるはずです。
そんな状態が自分の満足につながっていればよいのですが、無理をし続けていると、「倒れてのち病む」二の舞になる可能性だってあります。
本書を読んで、心因性の痛みを起こさない生き方とは、「あるがまま」を味わって生きることだと思うのです。
神経症に対する治療法のひとつに「森田療法」があります。
本書では、腰痛から脱却する方法として、森田療法の考え方が幾度も出てきました。
森田療法では、人間が「こうあるべき」という考え方にとらわれてしまうと、その人の心身の健康が損なわれてしまうと考えられています。夏樹さんも、「作家、夏樹静子を維持しなければいけない、良い作品をかかねばならない」という信条が、知らず知らずのうちに心身を蝕んでいたのではないでしょうか。
心と身体の密接なかかわりと、潜在意識のパワーを知ることができる一冊です。
仕事はほどほどに、自分自身を捻じ曲げない程度に、何事ものんびりやるのが一番!!・・・心からそう思いました。いやほんと。
腰は大切。