心理学の大家、フロイトの書籍を読みました。
内容が難しすぎてよく分かりませんでした。
えぇ…
いや、入門書無しで、いきなり読むもんじゃなかったわ!!
ジークムント・シュローモ・フロイト。
ドイツのウィーンで多くの神経症・精神分析に携わり、心理学の進展に寄与した偉大な心理学者です。
私は薬剤師という仕事柄、精神科にかかられている患者さんと接する機会も多くあります。
最近は、「精神・こころ」をテーマにした書籍を読んでいました。
書籍の中で必ずと言ってよいほど話題に出てくるのが、フロイト心理学です。
現代においても多大な影響を与える理論を知るために、図書館で「人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス(光文社古典新訳文庫 中山元 訳)」を借りて読んだのですが、まあ難しかった!
本日私が読んだのは、「戦争と死に関する時評」「心的な人格の解明」といった、フロイトの後期の著作が収録された文庫です。
その中でも、唯一私が理解できた(と思われる)のが、表題作である「人はなぜ戦争をするのか」です。
これからこの著作を読む方に向けて、また、今後の私がフロイトに再挑戦するときのため、なるべくわかりやすく内容を紹介したいと思います。
もくじ
そもそもフロイトって何をした人なの?
ジークムント・シュローモ・フロイトは、1858年、モラビア(現チェコ共和国東部)の町フライブルクのユダヤ人商人一家の長男として生まれました。
幼少期にフロイトの父が、ユダヤ人であるという理由で嫌がらせを受けていた姿を目撃し、父親に対するアンビヴァレント※な感情を覚えるとともに、自分がユダヤ人である意味を意識するようになったとのこと。※アンビヴァレント:両義的な、という意味。ある対象に対して、ポジティブな感情とネガティブな感情を同時に抱くこと。
4歳の時にドイツのウィーンに移住し、17歳でウィーン大学医学部に入学。
30歳から神経症の治療を開始し、精神医学者としてヒステリーの治療に携わりました。
フロイトの精神分析で有名なものは、夢を通じて患者の無意識をあらわにする『夢判断』です。
動物恐怖症、父親コンプレックス、妄想性痴呆といった様々な症例に向き合い、精神分析の手法を確立させました。
第一次世界大戦以降には、メタ心理学的な理論を展開し、人間の「意識」と「超意識」の関係について新たな理論を発表。
後世の心理学に大きな影響を与え、1939年に癌のため死去しました。
アインシュタインと、フロイトが「戦争」について語る
「人はなぜ戦争をするのか」が発表されたのは、第一次世界大戦後の1932年。
相対性理論でおなじみの、アインシュタインと交わしたお手紙が公開されたものです。
国際連盟が主体になって、アインシュタインが1つのテーマを取り上げ、それに関心を持つ人物を選び出し、手紙を交換するというプロジェクトが行われました。
そこで取り上げられた内容は、なんと「人間を戦争の脅威から救い出す方法」です。
物理学者のアインシュタインが、戦争について書簡を出してたなんて知らなかった・・・!
アインシュタインは、手紙の中でこのように問いかけます。
国同士の安全を確保するために、国際連盟が必要やと思うねん。でも国際連盟には戦争を止める権利が与えられてへんな。
国民が支配者の権力に従って、戦争に同意したのは、心理学的にどういう力が働いてんの?あんたどう思う?
ちなみに、アインシュタインは決して関西弁を話したわけではありませんので悪しからず(言わんでもわかる)。
この問題に対するフロイトの回答を取り上げ、「人はなぜ戦争をするのか」と題されました。
それはな、人間には生と破壊の欲望がどっちも存在してるからやろな。
戦争を止めるために必要な、国際連盟という理想
戦争からの脱却を目指すために、アインシュタインとフロイト両方が同意したのが、中央集権的な政府を作ることでした。
戦争を確実に防止するためには、人類が一つの中央集権的な政府を設立することに合意する必要があります。そして、すべての利害の対立を調定する権利を、この中央政府に委ねなければいけないのです。
人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス(光文社古典新訳文庫 中山元 訳)p21より抜粋
また、そのために必要な条件として、2つあげています。
このような上位に立つ機構が設立されること、
そしてその機構に、必要とされる権力が譲渡されることです。
その片方だけでは不十分なのです。
人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス(光文社古典新訳文庫 中山元 訳)p22より抜粋
国際連盟は、中央政府となりうる組織だったはずです。
共同体を超えた組織を作ることは、人類史上類を見ない取り組みでした。
しかしながら、設立はされたものの国家間の戦争を止める権力は無く、この書簡の後に第二次世界大戦が勃発することとなります。
どうして人は戦争に熱狂してしまうのかーエロスとタナトスー
アインシュタインは、戦争を止める権利が国際連盟に譲渡されない原因として、国民が支配階級に甘んじているためだと分析しました。
支配者が「戦争をする」という決定をしたとしても、軍人たちのクーデターや、国民たちの猛反発があれば、実行には移されなかったかもしれません。
しかし、実際に第一次世界大戦のとき、国民自身が戦争に熱狂し、戦いにつきすすむ原動力となっていたことは確かです。(p24)
フロイトは、この原因として、人間が二種類の欲動※に支配されているためだと考察しました。
一つは、生を統一し、保存しようとする欲動です。(中略)この欲動をエロスと呼んでいるので、私たちもこれをエロス的な欲動と呼びます。
人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス(光文社古典新訳文庫 中山元 訳)p24より抜粋
もう一つの欲動は、破壊し、殺害しようとする欲動で、これを攻撃的欲動や破壊的欲動と総称しています。
人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス(光文社古典新訳文庫 中山元 訳)p24より抜粋
それはな、人間には生と破壊の欲望がどっちも存在してるからやろな。
後者の破壊的な欲動は、後年になってタナトス(死)と名付けられました。
エロスとタナトスは混ざり合いながら、欲求の実現に向けて絶えず動いています。
例えば、生きたいと思う欲求を満たそうとすると、自分の敵を攻撃し、自分自身の身の安全を確保しなければいけない場合もあるでしょう。
そしてこの欲動が厄介なところは、自分自身にも向けられることです。
人間は、「自ら向上しよう、良くなろう」とする欲望と同時に、「自分自身を殺してまいたい、ダメになりたい」という欲望を持ち合わせています。
自分自身を傷つけ、悲劇のヒロイン的な立場になった瞬間、自己憐憫の感情とともに、暗い満足感を得る瞬間がある。
思い返すと、私自身にもそんな瞬間がいくつかあったように思いました。
そんな破壊の欲動が自分自身に向けられることで、鬱や神経症の原因にもなりえます。当然、破壊の欲動は自身よりも外部に向けられた方が健全であり、自分自身にかかるストレスも軽減されることになるのです。
行き場のない破壊の欲動が、同じ国の友人たちではなく、遠くの国の知らない人々に向けられる瞬間。
それこそが、国民が戦争を歓迎し、熱狂した瞬間だとフロイトは論じています。
これは人間の本性だから、攻撃的な欲動を完全に無くすのは無理やで。
それよりか、人間同士の絆を深めて、戦争を防いだ方がええな。
90年後の現在。戦争を防ぐ方法とは?
人間の攻撃的な気質が変えることができないものであれば、生の欲動(エロス)に訴えかけることで、人間同士の争いを鎮めることができるーフロイトはそう考えました。
第一の絆は、愛する対象との絆です(ただし性的な目標はそなえていない愛です)
(中略)
第二の絆は同一化です。
人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス(光文社古典新訳文庫 中山元 訳)p33より抜粋
戦争を間接的に止めるために必要なのは、人間同士の愛情を深めること。聖書にある「汝の隣人を汝みずからのごとく愛せよ」の精神です。
それも、同じ町や国に住んでいるといった共通点の有無にかかわらず、全ての人間を同一の存在として考えて。
また、権威に無条件に従うのをやめ、自立した大衆を育てることも、戦争から脱するためのひとつの方法だと述べられています。しかしながら、人間は権力に従う存在と従わない存在がおり、前者の方が多いことは明らかです。
これは、アドラー心理学における『横の関係』の概念と似ています。
争いから脱却するためには、人類同士の権力構造を弱め、対等な関係性を築くことなしにはあり得ないのかもしれません。
さて、だれもが平和主義者になるまで、あとどれくらい待たねばならないのでしょうか。
人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス(光文社古典新訳文庫 中山元 訳)p37より抜粋
手紙のやり取りがあったのは、1932年。
もうすぐ90年経つけど、まだ実現できてないよ!フロイトさん!!
とはいえ、第二次世界大戦を通じて戦争の惨禍を経験した後では、戦争そのものを望まない声はより大きくなっているに違いありません。
戦争という見えない爆弾を、起爆しないために、個人のレベルで何をするべきなのかを見直せる内容です。