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箱庭療法で癒される。カウンセリングの現場で起こっていることとは?

「全盲の人がどこまで能力を開発できるかの、一種の実験だと思っているのです。」

これは失明し、「盲目である自分を受け入れられない」と悩んでいた女性の言葉です。
この方は視力を失ったにもかかわらず、箱庭療法と呼ばれる治療を受け、生きる希望を取り戻すことに成功しました。

箱庭療法とは、患者さんにおもちゃや人形を、砂の入った箱の中に配置してもらい、作った箱庭を鑑賞しつつ患者さんとのコミュニケーションを築く手法のことです。

冒頭で紹介した全盲の女性は、自分で作った箱庭を自分で見ることすらできないのに、カウンセリングを通じて新たな一歩を踏み出したのです。

Kada
Kada

いったい、治療の現場では何が起こっているの??

本日読んだのは、「セラピスト(最相葉月)」です。

カウンセリングという、まだまだ日本では馴染みのない、閉じられた世界。
そこでセラピスト(治療者)とクライアント(患者)が、いかに回復の道を見つけるかに焦点を当てたノンフィクションです。

   

カウンセリングとは何なのか?

カウンセリングの値段はバラバラで、高いと1時間話すだけで1万円取られたりする。
おまけに、「カウンセラーとの折り合いが悪くて病気が悪化した」なんて話も聞くもんだから、一体中で何が起きているのかが分かりません。

そもそも、カウンセリングとは何なのか?
名前は知っているけれど受けたことはない、という人がほとんどではないでしょうか。

カウンセリングとは、狭義には「言語的な話し合い」によって問題を解決していく心理療法の一つであるとされています。

しかしカウンセリングの現場では、患者と治療者が話しあうだけではなく、絵を描いたり、箱庭を作ったりと、悩み苦しむ人の問題を解決する心理療法を数多く取り扱っているようです。

うつや統合失調症、双極性障害といった精神病に対して、医師と連携し、医療行為として行われる心理的援助は「精神療法」と呼ばれ、人間関係の悩みや不登校などを取り扱う心理的援助は「心理療法」と呼ばれます。

どちらにせよ、カウンセリングの役割に共通しているのは、うちひしがれる人のそばで話を聞き、ともに回復の道を探っていくことです。

カウンセラーは有資格者でなくても名乗ることができます。
しかし、カウンセラーの乱立を避けるために、2017年に心理職の国家資格が誕生しました。
それが、公認心理士です。

そのほかには、民間資格である臨床心理士があります。

厚生労働省によると、精神疾患による患者数は増加傾向にあり、その数は320万人にのぼるとされています。
それに伴い、カウンセリングの市場も増大しており、現在は300~350億円ぐらいの規模だとのこと。

   

中途失明女性の箱庭制作ー盲目に悩む女性の新たな出立

医療行為からただの相談まで、広く心の悩みを取り扱うカウンセリング。
一体どうして、そこで治療を受けることが癒しにつながるのでしょうか?

その疑問を探るために、本書ではあるクライアント(患者)の治療記録が紹介されています。
それが冒頭で紹介した、視力を失った女性Iさんの箱庭制作です。

Iさんが視力を失う前は、学校の教師として働いていました。
しかし失明を理由に職を失い、離婚され、盲目である自分を受け入れられない怒りと葛藤に悩むことになります。

そのような理由で始めた箱庭制作。
本来はクライアントが棚の中から置きたい玩具を選び、箱の中に自由に配置していきます。
この方の場合は「置きたい」と思った玩具をカウンセラーに伝え、それに近いものをカウンセラーが選んで渡す、という方法で制作したそうです。

4回目の制作で、Iさんは少女の人形を、切り立った高い崖の上に置きました。
眼下には花が咲き乱れ、緑が溢れています。

「崖を下りる勇気がないのではなく、盲目の私は永遠に崖の上に一人でいるべきだと思っているんです。」

セラピスト(新潮文庫)ー最相葉月著 p177より引用

このころは、目が見える人と行動しながら、疎外感を抱く自分がいることを意識していたそうです。
自分を受け入れてほしいけれど、目の見える人の世界にいるべきではないとも思う。
そんな複雑な心境が読み取れます。

しかし、箱庭制作の回数を重ねるにつれ、川に橋が架かり、緑の木が増え、少女の人形は大きな木のふもとにたどり着くことができました。

最終回では、山に向かって歩くリュックを背負った女性の人形が配置されます。
過去の自分かもしれなかった少女の人形は、大人の女性に置き換わりました。

この箱庭制作の途中で、Iさんは大学の研修センターで研修生として学ぶことを決め、現在はアートの世界で活躍しています。

箱庭制作を行った2年もの歳月の中で、Iさんはもう一度自分の人生をゼロから紡ぎだすことに成功したのです。

Kada
Kada

なんとも言えない感動を覚えながら読み進めました。
箱庭には、こんなに心理状態が出るのか・・・と驚きです。

箱庭療法を通じて、自分自身の生きる力を取り戻す

Iさんが回復の道をたどることができたのは、箱庭制作によって自分の意識を客観視できたためではないか、と考えています。

Iさんの箱庭制作の最中、カウンセラーは何をしていたのでしょうか?

現実の生活の悩みや苦しみを打ち明け、相談していたわけではありません。
箱庭の内容を解釈し、心理状態を改善するアドバイスをしたわけでもありません。

ただそばにいて、玩具の位置の移動を追い、箱庭を見た印象をできるだけ言葉にして伝えただけです。

Kada
Kada

言語を介さなくても、アドバイスをもらわなくても、
回復するってすごいことだ・・・!

クライアントが絵を描いたり、箱の中に玩具を置いたりするとき、そこにはイメージの世界が展開します。

箱庭には本当に自分が出ます。

(中略)

箱庭を作ることで自分に気づき、行動が変化し、さまざまなことを考えて、また箱庭が変化する。
それを繰り返しながら自分が脱皮していったように思います。

セラピスト(新潮文庫)ー最相葉月著 p183より引用

箱庭制作によって、Iさんは自分の心理状態を客観的に判断することができるようになり、少しでも自分が良くなる方向へと進むことができました。

私はここから、人は誰しもが自分自身で回復し、新たに人生を紡ぎだす力を持っているのではないか、と考えます。
Iさんが研修生になることを決めたのも、アートの世界に飛び込んだのも、全て自分で選んだことです。

カウンセラーの役割とは、クライアント自身が回復の道を探るまでそばにいること。
そのために、クライアントがどんな内面を表現しても、受け入れる姿勢を作ることだと言えます。

   

カウンセリングの重要性を知れる、傑作ノンフィクション

Iさんの箱庭制作にかかった時間は2年間です。
1回あたり1時間半の制作をかかさず、ず~~~っと根気よく続けていく。
カウンセラーの協力が無ければ、決してなしえないことです。

私も精神科で薬をもらうことがありますが、患者が多すぎて診療にかかる時間は3分程度だったりします。

Kada
Kada

行って二言三言話して、薬貰ってハイ終わり!!だよ!!!

本書を読んで、自分の内面を共有できる時間がもっとあれば、生きることに対する悩みから楽になれるのではないか、とも思いました。
しかし、精神科でカウンセリングの時間を取ることが難しいのもまた事実・・・。

「セラピスト(最相葉月)」では、カウンセラーが人間の心に向き合うために、どのような勉強をし、患者と日々向き合っているのかが詳しく書かれていました。

この本を読めば、今まで知りえなかったカウンセリングの世界について知ることができ、その重要性も感じられます。

現在病をかかえて悩む人はもちろん、カウンセリングに興味を持つ人にも、手に取って頂きたい本です。
静かな語り口の中に、深い優しさが伝わる傑作ノンフィクション。おすすめです!

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