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自分の声が、昭和最大の犯罪に使用された!?実際の未解決事件をベースにした良作【罪の声】

私たちはいかにして不幸を軽減するのか。

それには、一人ひとりが考えるしかないんです。

罪の声(塩田武士)

グリコ・森永事件(リンク先wikipedia)をご存じでしょうか。
昭和1984年から1985年にかけて起こった、世間を震撼させた事件です。

そんな事件を下敷きにした小説があります。『罪の声(塩田武士)』です。
本日は、読んだ感想を熱く語っていきたいと思います。

ぶっちゃけ、かなり面白かったです。2時間ぐらいかけて一気に読みました。
実在の事件を丹念に取材して、構想を練られたことが伝わってきます。

Kada
Kada

サスペンス、事件物が好きな人はもちろん、
当時の事件をご存じの方も楽しめる小説です。

罪の声はどんな小説?

「これは、自分の声だ」

京都でテーラーを営む曽根俊也。自宅で見つけた古いカセットテープを再生すると、幼いころの自分の声が。それはかつて、日本を震撼させた脅迫事件に使われた男児の声と、まったく同じものだった。一方、大日新聞の記者、阿久津英士も、この未解決事件を追い始め–。

圧倒的リアリティで衝撃の「真実」を捉えた傑作。

カバー裏内容紹介より

Kada(@Kada_Se)です。サスペンス大好きッ子です。

本日読んだのは、『罪の声(塩田武士)』。冒頭で申し上げた通り、”昭和最大の未解決事件”ともいわれる、『グリコ・森永事件』をベースに執筆された小説です。

『グリコ・森永事件』を簡単に解説!

1984年3月18日、当時のグリコ社長である、江崎氏が何者かに誘拐されました。

犯行グループは社長の身柄と引き換えに金銭を要求。その後、社長は自力で脱出するものの、犯行グループは脅迫、グリコの関連施設の放火、金銭の要求などを続けました。

グリコへの脅迫が終わった後は、森永製菓をはじめとしたさまざまな食品企業にターゲットを変更し、青酸カリ入りの菓子を店頭に並べるなどの行為を繰り返しました。

その後、犯人から終結宣言が出たものの、現時点でも犯人は捕まっていません。

『グリコ・森永事件』が起こった1984年といえば、当時の日本では『風の谷のナウシカ』が上映され、探検家植村直己がマッキンリーの冬季単独登頂に成功し、チェッカーズが『哀しくてジェラシー』を歌ってヒットになりました。男と女はすれ違い~~♪♪♪

当時の、事件にまつわる世間の雰囲気について書こうと試みたものの、私はピチピチの20代後半なので、グリ森事件が起こった時当時は生まれてませんでしたチェッカーズはいいよね。そこで、当時を知る私の母や祖母にこの事件について聞いてみると、

「ああ~~、あったね!!懐かしいわ!」
「かい人21面相のやつやろ??俳句が面白かったわ!」

と、なんともゆるい感じで返されました。しかし、当時のことは強く印象に残っているようです。

「でも、結局捕まらなかったからね、今何してるか分からないけど、不気味だよね。」

この事件では、犯人が金銭の受取場所を指定するために、子どもの声を録音したテープを使用したことが話題になりました。このテープに声を吹きこんだ子どもはまだ見つかっていません。

Kada
Kada

もし子ども生きてたら、30~40歳ぐらいだと推定されてます。

そして、『罪の声』は、もしもテープに声を吹き込んだ子供が今も生きており、その子どもの自身が犯罪に加担したことを気づいてしまったら・・・・??という着想をもとに書かれています。

『罪の声』を読む前に読んでおくといい本

この本を楽しむためには、実際の『グリコ・森永事件』を知っておくことがベストです。
とはいっても、実際の企業名は使われておらず、

グリコ=ギンガ

森永=萬堂

となっています。

人物に関する描写は創作ですが、事件に関する記述は実際の事件をもとにしています。

グリコ・森永事件については、以前にも『未解決事件グリコ・森永事件ー捜査員300人の証言』という本を読みました。この小説を読む前に、こちらの本に目を通しておくと、さらに内容が楽しめるはずです。

【グリコ・森永事件】警察が昭和最大の身代金事件に敗れた理由とは

『グリコ・森永事件』の時系列は、NHKスペシャルの特設ホームページが非常にわかりやすかったので、そちらも参照いただければと思います。

『罪の声』の面白い点3つ!!

Kada
Kada

一気読み必須のサスペンスです。

この小説の面白い点を3つ挙げたいと思います。

①対照的な2人の主人公が真相に迫る様子が面白い

②2つの線が1本につながり、真実が明らかになる展開がスリリング

③事件小説でもありつつ、近年のマスメディアへの教訓を投げかけている

一つずつ解説します。

対照的な2人の主人公が真相に迫る様子が面白い

この小説の登場人物は多いです。正直めっちゃ多い。多すぎて途中で誰が誰だかわからなくなって、前のページに戻ることもありました。

しかし、そんな沢山の人物を辿りながら真相に迫っていく過程が、事件小説として非常に面白いです。

主人公は2人、阿久津と曽根です。

①曽根俊也

罪の声 カバー裏より

映画版のキャストはなんと星野源さん。優しそうな顔立ちが好きです。

京都でテーラーを営んでおり、病気の母、妻、娘の3人と一緒に暮らしています。

犯罪に利用されたカセットテープを自宅から偶然発見し、自分が『ギンガ・萬堂事件』に関わっていることを知りました。同時に、今は行方不明となっている叔父が事件の主犯である可能性を否定するため、叔父の行方を追うことになります。

曽根は、この小説における「犯罪に加担した側」の人間です。しかし同時に、子どもの頃に知らぬ間に犯罪に加担させられた被害者でもあります。

②阿久津英士

罪の声 カバー裏より

映画のキャストは小栗旬さんです。イケメン!!!!イケメンや!!!!!!!!

阿久津は、大日新聞に努める社会部の記者です。新聞の特集で未解決事件について紙面を作ることになり、『ギンガ・萬堂事件』を担当することになります。阿久津は、「犯罪を追う側」の人間です。

上司にパワハラまがいの対応を取られたり、理不尽にヨーロッパに行かされたりと、苦労が絶えない感じの人。でも、熱いジャーナリズム魂を持っています。

実は、作者の塩田さんは以前記者だった時期があり、阿久津はその時期の経験が強く反映されたキャラクターだと思っています。

2つの線が1本につながり、真実が明らかになる展開がスリリング

この対照的な2人の主人公が、それぞれのツテを辿って事件を調べ始めるんですよ。最初は、まったく別々の方向を調べていたのに、徐々に共通の場所へと調査を進め、そして2人の調査が1本の線で結びついていきます。

1つ1つの調査の過程はバラバラで、一見事件と関係になさそうに見えることもあります。しかし、後半になるにつれて事件との関連性が浮かび上がっていきます。

「あれ伏線だったのかよ!!!」と驚くシーンもあり、非常に面白いです。

創作とは言えども、実際に未解決に追わった『グリコ・森永事件』の真犯人に肉薄しているようで、ページをめくる手が止まりませんでした。一気読み必至です。

主人公阿久津のジャーナリズム魂から、マスメディアの在り方を探る

この物語は、『ギンガ・萬堂事件』という未解決事件を調査するという目的でスタートしていますが、事件小説ではなく、家族の物語です。

犯罪に巻き込まれた子どもたちは、加害者の家族でもありながら同時に被害者でもあります。子どもたちが生きていたら、今何をしているのでしょうか。事件にかかわったことそのものを知らずに生きているのか、それとも、罪の意識に苦しめられているのか・・・?

作中でも、知らずに犯罪に関わってしまった曽根は苦しみます。家族に影響を与えたくない。事件のことを誰かに知られることなく、そっとしておいてほしいと。阿久津は、そんな心情を受け止めたうえで、真実を知るためのに調査を続けていきます。

近年はインターネットの発達で、ジャーナリズムに批判的な投稿も目にするようになりました。
視聴率を取るために不安を煽る報道を続けたり、真偽不明のまま報道したり、遺族の心情を無視してカメラを向けたり・・・そんな場面がインターネットで拡散されるようになり、報道の在り方について疑問を持つ方もいるのではないかと思います。

そんな阿久津の、ジャーナリズムに対する思いがうかがえるセリフが作中にあります。

伝言ゲームになった時点で真実ではなくなる。理不尽な形で犯罪に巻き込まれたとき、これまで聞いたことも見たこともない犯罪に直面したとき、社会の構造的欠陥に気づいたとき、私たちはいかにして不幸を軽減するのか。それには、一人ひとりが考えるしかないんです。だから、総括が必要で、総括するための言葉が必要なんです。

p478より

阿久津が考えるジャーナリズムの役割とは、真実を伝え、日本に暮らす一人ひとりが考えるきっかけをつくること。そして、悲痛な出来事から立ち直る糧になることかもしれません。

このシーンを読んで、思い出した本があります。清水潔さんの「桶川ストーカー殺人事件」という本です。

ストーカーと、警察に殺された被害者|「三流」メディアが警察の闇を暴く

こちらは小説ではなく、事件のルポタージュになります。雑誌記者であった清水潔さんという方が、地道な聞き込みと調査の末に、闇に隠されそうになっていた事件を掘り起こし、真実を世に報道することに成功した事件です。

その調査の一連の出来事が書かれている「桶川ストーカー殺人事件」では、実際に被害者の家族が、ジャーナリズムによって救われていました。

『罪の声』の場合は小説ですが、マスメディアの役割とはこういうことでないでしょうか。

ニュースや新聞は、決して視聴率を取るために存在しているわけではない。そんな教訓を投げかけているかのように感じました。

終わりに

『罪の声』はなかなか太い本です、読むことを躊躇しちゃう人もいるかもしれません。

それでおも、情報化社会における教訓を考えさせてくれる、良作の小説だと思います。そして、真実に迫る行程も非常にスリリングで面白い。

ぜひ、興味を持ってくださった方は読んでいただきたいです。

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この小説のベースとなった『グリコ・森永事件』について知りたい方はこの本がお勧めです。

【グリコ・森永事件】警察が昭和最大の身代金事件に敗れた理由とは

同じく、ジャーナリズム魂をビンビン感じる本。『罪の声』が好きな方は次はこちらを読むのはいかがでしょうか?

ストーカーと、警察に殺された被害者|「三流」メディアが警察の闇を暴く

では、今日はここまで。ばいばい!!

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