AIが、人間を超えるなんてありえない。そう思っていたけれど・・・。
1996年、コンピューターとチェスの世界チャンピオンが対戦しました。結果は、コンピュータープログラムのディープ・ブルーが、チェスの世界チャンピオンのガルリ・カスパロフに勝利。
この出来事は、機械に対する人間の優位が崩れた瞬間として、非常に有名です。それまで、コンピューターは人間をチェスで打ち負かすことはできないと信じられていました。
しかし、今のAIの進歩はとんでもないことになっています。
いやいや!AIが勝てるのはゲームの分野だけだよ。
感情や、芸術の分野は無理でしょ。
そう思っていた時期が私にもありました。
本日の本は、『ホモ・デウス(ユヴァル・ノア・ハラリ著)』
テクノロジーの進歩を正しく理解し、将来人間の未来に何が起こるのかを予測した一冊です。
もくじ
芸術的な活動は、本当に人間の独壇場か?
AIは、芸術の分野でも人間より秀でた活躍ができる。
それを証明するのが、ディヴィッド・コープが開発したEMI(Experiments in Musical Intelligence)と呼ばれるコンピュータープログラムです。
EMIは、様々な音楽家の曲を学習することが得意。なんと、1日でバッハ風の合唱曲を5000曲も作成することができます。
そんなEMIと、人間の音楽家が対決しました。
- バッハが作った曲
- EMIが作った曲
- スティーブ・ラーソン(音楽家)が作った曲
の3種類をプロのピアニストに演奏してもらい、聴衆にどの曲が誰が作ったものかを投票してもらうというものです。
結果、聴衆はEMIが作った曲がバッハのもので、ラーソンが作った曲はEMIが作ったものと判断されました。
音楽家はショックだろうなぁ…。
AIが台頭すると、様々な職業が失われるであろうことは周知のとおり。
それでも、私は「AIには、人間の感情を揺さぶるものは作れない」と思っていました。
ところが実際は、EMIの成功を受け、さらに高度なプログラムが作られました。新しいプログラムでは、作曲だけでなく俳句も作れます。しかも、人間の作ったものと見分けがつきません。
芸術の分野であっても、AIの魔の手からは逃れられなくなるかもしれません。
人間が不要になる!?AIが発達した未来の世界は?
AIが発達すると、仕事が無くなるかもしれないんだよね。怖いなあ
無くなるどころか、人間は無用になるかもしれません。
AIが発達すると、「雇用が不可能な人間(無用者階級)が世にあふれる」。著者のユヴァル・ノア・ハラリは、このように予測しています。
雇用が少ないのではなく、雇用不能なのです。
その理由の一端を担うのが、生命科学の発達です。
私たちの世界では、人間は自由な意思を持ち、自分自身の価値観によって決定を下す存在だと強く信じられています。
ところが最新の研究で、人間の意思決定のプロセスには、脳のアルゴリズムが関わっていると分かりました。
アルゴリズムとは、「計算可能」なことを計算する、形式的な手続きのこと、あるいはそれを形式的に表現したもの。
wikipedia「アルゴリズム」より抜粋
ところが生命科学は自由主義を切り崩し、自由な個人というのは生化学的アルゴリズムの集合によってでっち上げられた虚構の物語にすぎないと主張する。脳の生化学的なメカニズムは刻々とけ
『ホモ・デウス(ユヴァル・ノア・ハラリ著)』p130より抜粋
つまり、人間の感情や行動は決まった手順によって決定されており、制御可能だということです。
生き物はアルゴリズムであり、生命はデータ処理である。
近年、脳の一部分に電気信号を送ることで、人間の集中力を増大させたり、特定の行動を取らせたりすることが可能になりました。感情を操作し、精神的な疾患を改善することにも、すでに成功しています。
同じアルゴリズムであれば、人間の仕事をAIが肩代わりすることは容易でしょう。それどころか、AIは人間のようにミスもしないし、ご飯も食べないしウンコもしません。人間いらなくね??
これらの理由により、人間の仕事はほぼすべてがAIに置き換わり、一部のAIを制御する人間と、それ以外の雇用不能な人間との間で格差が発生する。自由主義は崩壊する。
これが、ユヴァル・ノア・ハラリが考える未来の世界です。
テクノロジーは、逆に人間を不幸にするかもしれない
タイトルの『ホモ・デウス』。これは、『人間がテクノロジーを利用して自分自身をアップグレードし、神のような存在になる』ということを表しています。
本書の中では、以下のような可能性が検討されていました。
- 医療が、病人を回復する目的ではなく、人間をアップグレードする目的で利用される可能性
- 人間がさらに寿命を延ばし、不老不死を目指す可能性
そのテクノロジーも、人間全員にいきわたるわけじゃないんだろうなぁ。
人間が幸福を追求するためにテクノロジーを発展させたのに、そのために人間は不要になってしまう。
行き過ぎたテクノロジーはかえって人間の首を絞めることになるだろう、というのが本書の結論です。
データがすべてを支配する世界は、本当に人間にとって幸福なのか?と考えました。
私は薬剤師ですが、薬の飲み合わせや副作用のチェックはAIの得意分野です。将来的には、薬剤師の仕事を続けることは難しいのではないかと考えています。
AIに負けないように、接客力を上げよう!
患者さんに喜んでもらえる薬局を目指そう!
なんて本社から通達がありましたが、本書を見ているとそんなレベルではないだろうと感じました。
人間の感情を測定し、相手が求める言葉を的確に提供する接客ロボットが開発される可能性も考えられるのです。
将来人間がどうなるのか、AIがもたらす脅威にどう対応するべきなのか。
正直なところ、私も結論が出ていません。
『ホモ・デウス』は私たちの世界の見え方を一変してくれる本です。
本書は、人類史から先端テクノロジーまで網羅的に解説しており、現在の世界がどのように作られたのかにも言及しています。
非常に知識欲が満たされ、想像力が飛躍する良書です。